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【知っておきたい】クマ・イノシシから命を守る「緊急銃猟制度」のポイント


近年、クマやイノシシが私たちの生活圏に現れるケースが増え、令和5年度にはクマによる人身被害が過去最多を記録するなど、深刻な問題となっています。このような状況から、地域住民の安全を迅速に確保するため、「緊急銃猟制度」が創設されました。

この制度がどのようなものなのか、そしてなぜ私たちに知っておいてほしいのか、そのポイントを簡潔にご説明します。

緊急銃猟制度の基本をおさえよう!

緊急銃猟制度は、一言で言えば「人の生活圏に出没した危険なクマやイノシシを、住民の安全を確保した上で銃器を使って捕獲する」ための制度です。

  • どんな時に?
    • クマやイノシシが人の日常生活圏(住宅地、農地、河川敷、建物内など)に侵入し、人身被害の恐れがある時。
    • 他の方法では迅速かつ的確な捕獲が困難で、かつ住民の安全が完全に確保できる場合に限られます。
  • どこで?
    • 人の日常生活圏、およびその付近で安全確保が可能な場所。
  • 誰が?
    • 市町村長が最終的な判断と実施の責任者です。
    • 実際に銃猟を行うのは、市町村長が指示または委託した専門の「捕獲者」(市町村職員または外部の専門家)です。
  • 何を使って?
    • ライフル銃、散弾銃(スラッグ弾使用)、麻酔銃などが用いられます。
  • 何を対象に?
    • ヒグマ、ツキノワグマ、イノシシ(イノシシは基本的に成獣に限る)が対象です。
  • どうする?
    • 人に弾丸が当たらないよう、徹底した安全確保を行った上で銃猟が可能となります。この制度による銃猟には、事前の許可申請は不要です。

なぜ、今この制度が必要なのでしょうか?

これまで、クマやイノシシが市街地に出没した場合の銃器使用は、警察官職務執行法に基づく「現実的かつ特に急を要する危険な状況」など、非常に限定的な場合のみでした。しかし、動物が膠着状態にあるような場合でも、より予防的かつ迅速に対処し、人身被害を未然に防ぐために、この緊急銃猟制度が創設されたのです。

安全確保が最優先!平時からの周到な準備

緊急銃猟は、私たちの生活圏で行われるため、安全が何よりも重要です。制度を適切かつ迅速に運用するために、市町村は平時から周到な準備を進めています。

  • 対応マニュアルの作成:緊急時の対応フローや連絡体制を明確にします。
  • 人員・協力体制の確保:市町村職員、専門の捕獲者、都道府県、警察など、関係機関との連携体制を構築します。特に、高い射撃技術、冷静な判断力、法令知識を持つ捕獲者の確保と育成は極めて重要です。
    • 2025年度からは、環境省による「クマ人材データバンク」も運用開始予定です。
  • 訓練・研修の実施:机上訓練や実地訓練を定期的に行い、現場での連携や共通認識を強化します。
  • 備品の準備:ヘルメット、盾、クマ撃退スプレー、無線機、照明器具など、安全かつ確実な対応に必要な装備を確保します。
  • 保険への加入:万が一の物損や人身事故に備え、市町村があらかじめ保険に加入しておくことが強く推奨されています。これらの準備にかかる費用の一部には、国の交付金が活用できる場合があります。

緊急銃猟実施の流れと住民の皆さんへのお願い

  1. 通報と計画の調整 住民からの目撃情報などを受け、市町村は現場の状況を詳細に聞き取り、緊急銃猟の必要性や実施の可否を判断します。
  2. 安全確保措置最も重要なフェーズが安全確保です。
    • 通行禁止・制限:弾丸が到達する可能性のある範囲や、危険鳥獣が興奮して暴れる可能性のある範囲の通行を禁止・制限します。
    • 住民の避難:危険区域内の住民には、屋外への退避や、窓から離れるなどの屋内退避を指示します。
    • これらの措置は、広報車、防災無線、ウェブサイトなどで広く周知されます。
    • 通行禁止・制限に正当な理由なく違反した場合は、法律により罰則の対象となることがありますので、ご協力をお願いいたします。
  3. 緊急銃猟の実施 安全確保が確認され、すべての条件が整い次第、捕獲者が銃猟を実施します。市町村は常に現場の安全状況を確認し、危険があれば即座に中止を指示する体制をとっています。
    • クマやイノシシを迅速かつ人道的に捕獲するため、捕獲者は頭部側面や胸部といった急所を狙う高い技術が求められます。
    • 夜間(日出前・日没後)の銃猟は、特別な状況を除き原則行いません。
  4. 実施後の対応 捕獲後は、現場の原状回復、安全確保措置の解除、そして損害がないかの確認を行います。万が一、物損や人身事故が発生した場合は、市町村が損失補償や国家賠償の責任を負います。

警察との緊密な連携

警察は緊急銃猟の実施主体ではありませんが、市街地でのクマ等出没時には、市町村と連携し、地域住民の安全確保のための避難誘導、交通規制、警戒活動などで協力します。事前準備段階からの連携が非常に重要とされています。

まとめ

緊急銃猟制度は、近年増加する危険鳥獣による人身被害から、私たちの命と安全を守るために創設された重要な仕組みです。この制度が円滑かつ安全に機能するためには、市町村の周到な準備と、そして住民の皆さんのご理解とご協力が不可欠です。

クマやイノシシが出没した際は、自治体や警察からの指示に従い、落ち着いて行動するようお願いいたします。

※本記事は環境省の「緊急銃猟ガイドライン」(令和7年7月作成)に基づいています。


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